陰 陽
陰陽は、古代中国の自然哲学の思想である。自然を二元論で観察すると、天と地、山と海、日なたと日かげ、昼と夜、男と女、寒と熱などのように二つの相対する事象があり、しかもそれらがバランスよく調和している。人体においても同様の調和が保たれることにより正常の運行がなされていて、このバランスがなんらかの原因により乱れたときに病気になると考える。このような発想で、病人を陰(に傾いている人)と陽(に傾いている人)の2群に分けるが、薬についても陰と陽の2群に整理して、陽の患者には冷やす作用(陰)の薬を用い、陰の患者には体を温める作用(陽)の薬を用いる。患者の病態を陰と陽のいずれかに分けることは漢方医学的診断の第1歩であるといえる。
虚 実
虚実は体質を考えるときや病状を考えるときに重要な概念である。一言でいえば虚とはエネルギーが枯渇している状態であり、実はエネルギーが余っている状態である。基本的に虚であるものには補う薬を用い、実であるものには瀉(しゃ)(出す、発散する)薬を用いる。陰陽と区別がつきづらい面があるのは事実だが、陰であるから虚とは限らず、陽であるから実とは限らない。たとえば体力があっても女性で心が落ち着いている人もいる。また、見かけにだまされないようにする。からだは大きくても虚弱体質な人もいるからである。
さらに体質と病状では虚実の見方が異なることがある。たとえば体質が虚であっても精神病の極期にあれば、病状は実と扱って薬を選ぶことがある。重要なのは、多面的な視点から患者をみることであり、本質を見抜く目をもつことである。陰陽とともに虚実の区別ができてくれば使うべき漢方薬はかなり絞られてくるといえる。
気 血 水
漢方医学では、生体の異常を説明する生理的因子として、気・血・水の概念が用いられる。気は中国思想全般を通じて最も重要な概念である。医学上では生体を充実した状態に保つものとして、血と並ぶ二大生理因子の一つとなっている。
気の異常は“こころ”と“からだ”を結ぶ機能系の異常を示し、現象的には自律神経異常やエネルギーの停滞などにより引き起こされるこれらの病状は“上昇”“変動”しやすいという気の性格に起因している。気が上りすぎると元気になりすぎて「気逆」となる。閉塞すると「気うつ」となる。気逆になると怒りやのぼせなどの症状が、気うつになると文字どおり気力低下などの症状が出てくる。血は現象的には血液とその代謝物であり、全身を自律的に巡り細部の組織にまで栄養を与えるが、気によってさらに高次の制御を受けている。
血の特有な性格は“停滞あるいは下降”である。血の停滞は主として微小部の循環障害をさし、これを瘀(お)血(けつ)とよぶ。血そのものが少ない場合は血(けっ)虚(きょ)という。瘀血があると月経の不具合、血行不良、冷えなどの症状がみられ、血虚があると貧血、皮膚乾燥、抜毛などの症状がみられる。水は血から別れたものであり、現象的には血液以外の液体成分である。水は血と同じような“停滞あるいは下降”の性質をもつ。そのことを水毒(すいどく)あるいは水滞(すいたい)という。水毒(水滞)では、むくみ、めまい、尿の異常、口渇、そのほか湿気や水にまつわる症状がみられる(内海聡)
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